横光利一「蠅」(青空文庫版 新字新仮名)へ

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☆必見! 横光利一「蠅」の「四」の生徒によるオリジナル・ピクトリアル・スケッチ(2011年12月20日追加)


横光利一「蠅」の映像化に関わる覚書/シナリオ

   やぶちゃん作 (copyright 2005 Yabtyan)

モノクロ・三五ミリ

○シークエンス1 1シークエンス1カットめいた長回し撮影(実際には特殊技術をいた複数カット合成で)
太陽を撮る~黒澤の「羅生門」以前には存在しないショット
超低感度フィルムを用いるか、通常フィルムでハレーション効果を狙うか。                
太陽からクレーン・ワークでティルト・ダウンして、無人の宿場、その場庭へ。
そのままカメラ、人の視線位置で非常にゆっくりと一周して場庭の家々の情景を見せる。
暗い闇を開けている厩の前で止まる。
カメラ、闇へズーム・イン。
F・Iのような効果を出しながら(あくまでもフィルムは回し続ける)、明るくなってゆく厩の中。
藁の山だけが見えてくる。
ゆっくりパン・アップして、厩の屋根の横木を捉える。
さらにその薄汚れた木肌が見えるまで、ズーム・アップ。
そのまま右に屋根の角まで、ゆっくりパン。
角の蜘蛛の巣でストップ。
蜘蛛が中央にいて、身構えている。
震える蜘蛛の巣。
ややカメラが引くと、蜘蛛の巣の端に後足を引っ掛けて、もがいている蠅。
その蠅へ、再度ズーム・アップ。
アップ!
アップ!
顕微鏡的接写までアップ。
モンスターのような蠅の複眼と突き出た口吻がしっかりと映るように。
同倍で蠅の後ろ足が蜘蛛の巣にくっついてもがいている接写。
通常の人の視線位置で、蜘蛛の巣にぶらぶら揺れている蠅のアップ。
と、ぽとりと豆のようにゆっくり落ちる蠅。落ちる瞬間から高速度撮影に移る。
高速度撮影。カメラ、ゆっくり落下する蠅を追ってゆっくりティルト・ダウン、着地寸前に通常スピードに戻す。
そこは、大きな馬糞の上である。蠅は何か考えるようにゆっくり馬糞上を移動。カメラ、追う。
蠅、軽くぴょんと飛ぶ。
藁しべにつかまっている蠅のアップ。
蠅、藁しべを上ってゆく。
その向こうに青く光る密生した毛の壁。馬の耳のアップ。
くるっと動く。
馬の尻と尻尾。軽く尻尾が動く。カメラ、そのまま少し右足の後ろの方までティルト・ダウンしながらアップ。さっきの蠅が、ゆっくりとよじ登っている。
と、馬が尻尾を再びさっと振る。
蠅ぱっと飛ぶ。
高速度撮影。馬の背のアップ。そこにゆっくり飛来する蠅。着地。
接写。まるで冷や汗をぬぐうかのように複眼と口吻を前脚でぬぐう蠅。

○シークエンス2 1シークエンス3カット
1 厩の馬の右横顔。軽く嘶いて何かを探すように首を動かす。
2 将棋盤。ぱっと撒かれる駒。
3 まんじゅう屋の店頭。将棋板に乗りかかるようにしていた円い荷物のような猫  
  背の馭者が、首を上げた瞬間の背後のバスト・ショット。庇にさえぎられた朝
  日が、彼の腰から背中にさっとかかる。床机に腰掛けてまんじゅう屋の親父と
  将棋をさしている馭者である。投げつけるように。
馭者「なに? 文句をいうな。もう一番じゃ。」

○シークエンス3 1シークエンス22カット
1 分かるか分からないかぐらいの高速度撮影。走る農婦の足首のアップ。
2 同じ高速度撮影で、髪を乱して走る農婦の顔のアップ。
3 1と同じ。
4 俯瞰フル・ショット。場庭に走り込んできて、ぱっと止まる農婦。
5 ハア! ハア! ハア! 息を切らせている農婦バスト・ショット。
6 農婦の背後からフル・ショット。正面には馭者部屋の小屋。つんのめるように、   
  たたっと走ってゆく農婦。
7 馭者部屋内から。入り口に半身を入れている農婦。性急に。不安げな様子で。
農婦「馬車は出るかのう?」
8 農婦の見た目で。薄汚れた馭者部屋。
9 ゆがんだ畳の上の、酒色の番茶をこぼしている湯のみのアップ。
10 場庭の中央から。馭者部屋から出てくる農婦。左右を見て左へ場庭を小走りに
  回る。追うカメラ。まんじゅう屋の横まで来て止まる。向こうに床机に腰掛けた馭
  者の後姿。
11 農婦の正面からバスト・ショット。
農婦「馬車はまだかの?」
12 まんじゅう屋の店頭。湯気を上げる蒸し器越しのまんじゅう屋の妻、農婦の方を覗くように左を見て。
まんじゅう屋の主婦「先刻出ましたぞ。」
13 11と同じショットで。切羽詰った絶望的な感じで、性急な泣き声とともに。
農婦「出たかのう。馬車はもう出ましたかのう。いつ出ましたな。もうちと早よ来るとよかったのじゃが、もう出ぬじゃろか?」(以下泣き声)
14 そのまま暫く立ち尽くす。農婦、泣きながら諦めてゆっくりと背後に体を回して
  てゆく。と同時にカメラやや上がりフレーム・アウトする。すると農婦の向こうに
  一筋の街道。フォーカスを街道の消失点に移動。農婦の震える後姿がとぼと
  ぼとだんだん小さく動いてゆく。
15 対戦相手の位置から、暗い将棋板を見つめる馭者のバス・トショット。 吐き捨てるように。
馭者「二番が出るぞ。」
16 立ち止まる農婦の後姿のバスト・ショット。農婦、さっと振り返り、薄い眉をつりあげがら。
農婦「出るかの。すぐ出せるかの。せがれが死にかけておるのじゃが、間にあわせておくれかいの?」
17 将棋盤の一角、アップ。桂馬がパチン!
18 ロー・アングルで馭者の顔のアップ。
馭者「桂馬と来たな。」
19 11と同じショットで。農婦、場庭に走り戻って。
農婦「まアまア嬉しや。街までどれほどかかるじゃろ。いつ出しておくれるのう。」
20 15と同じショットで。
馭者「二番が出るわい。」
21 と馭者がぽんと歩打つ、その盤面のアップ。
22 農婦の顔のアップ。
農婦「出ますかな、街までは三時間もかかりますかな。三時間はたっぷりかかりますやろ。倅が死にかけていますのじゃ、間に合せておくれかのう?」
不安な顔。そこにオフで駒をパチンと打つ音かぶさる。同時にカット。

○シークエンス4 1シークエンス18カット
・以下はすべて二人の(レールと台車を使った)移動ショット。
1(F・I)風にかすかに揺れる緑の稲のアップ。
向こうに陽炎。「シャンシャン」という種れんげをたたく音。このあとこのシークェンスの最後まで時々断続しながら鳴り続ける。
フォーカス、背後に移動。陽炎の揺れる中をだんだん近づいて来る二人の人物。
2 道を急ぐ若い男女の左手からのバスト・ショット(娘は若者右手のやや後ろ)。
3 若者の右肩をナメて娘の顔。若者の肩に手をかけて。
娘「持とう。」
4 カメラ、すぐ右にパンして、娘の顔、フレーム・アウト、若者の顔、フレーム・イン。
若者「なあに。」
5 右手から二人を俯瞰ショット。
娘「重たかろうが。」
6 右からの若者の顔のアップ。いかにも軽いという感じをちらと娘に送る表情。額から汗さっと流れて、口元に入る。舌でさっとなめて、小さなため息をつく。
7 娘、正面顔。不安げに呟く。
娘「馬車はもう出たかしら。」
8 荷物ごしに眼を細めて太陽を眺める若者の顔。
若者「ちょっと暑うなったな、まだじゃろう。」
9 手前に田。青々とした稲。向こうから歩いてくる二人のフル・ショット。オフで、種れんげをたたく音、そして牛の鳴き声。
10 黙って行く二人の右手からのバスト・ショット。
11 風に揺れる稲のアップ。
12 うつむいた娘のちょっと泣きそうな顔のクロース・アップ。
娘「知れたらどうしよう。」
種れんげをたたく音。
13 二人の背後からのバスト・ショット。娘振り返る。
種れんげをたたく音。強く。
14 風に揺れる稲のアップ。
種れんげをたたく音。強く。
15 前から俯瞰のバスト・ショットで二人。娘、若者の肩の荷物に手をかけて。
娘「私が持とう。もう肩が直ったえ。」
それを振り切るように黙ってどしどしと歩き続ける若者。
16 揺れる稲のアップ。
種れんげをたたく音。強く。
17 若者の刈り上げた頭の真後ろと前に続く道。
若者「知れたらまた逃げるだけじゃ。」
と呟く声。
18 揺れる稲のアップ。
種れんげをたたく音。一層強く。カット。

○シークェンス5 1シークエンス11カット
1 宿場の場庭。地面のみの俯瞰。但し画面の下に小さく床机があり、そこに農婦が座っている。画面左上から母親に手を引かれた男の子が指をくわえて入って来る。画面の左上中央で、男の子は何かに気づいて立ち止まる。
2 母親の視線から。見上げる男の子。
男の子「お母ア、馬々。」
3 男の視線からローアングルの母のバス・トショット。
母(如何にも子育てに疲れた、かったるいという感じで)「ああ、馬々。」
4 1と同じアングル。男の子は母親から手を振り切ると、左の厩の方へフレーム・アウト。
5 厩の中からのショット。黒い入り口と土間があたかも絵の額縁のように。二間(四メートル弱)離れた場庭から馬を見ながら、男の子。
男の子「こりゃッ、こりゃッ。」と叫びつつ、片足で地をトントン! と打つ。
6 首をもたげる馬の首から上のショット。
7 耳を立てる馬の耳のみのショット。
8 馬の真似をして首を動かす男の子のフル・ショット。馬に対して顔をしかめてみせる男の子。
9 男の子の下半身のショット。
男の子「こりゃッ、こりゃッ。」と叫んで地を打つ。
10 槽の手づるを口をひっ掛けたまま、その中へ顔を隠して馬草を食っている馬の首と槽の正面、男の子の見た目のショット。
11 男の子の背後からフル・ショット。男の子、振り返り、
男の子「お母ア、馬々。」
そのままで。オフで。疲れ切った気のない声で。
母「ああ、馬々。」
カット。

○シークエンス6 1シークエンス13カット
1 宿場の場庭へ向かう道。歩いてくる田舎紳士。左下からのロー・アングルで。歩きながら、
田舎紳士「おっと、待てよ。これは倅の下駄を買うのを忘れたぞ。あ奴は西瓜が好きじゃ。西瓜を買うと、俺もあ奴も好きじゃで両得じゃ。」
2 場庭。シークエンス5のショット1と同じ俯瞰ショット。右手上から入ってくる田舎紳士。農婦は場庭の床几から立ち上ると、彼のそばへよってゆく。
3 田舎紳士の見た目で。農婦、フルショット。近づきながら。おろおろと、半泣きで。
農婦「馬車はいつ出るのでござんしょうな。倅が死にかかっていますので、早よ街へ行かんと死に目に逢えまい思いましてな。」
4 農婦の見た目で。田舎紳士のバスト・ショット。
田舎紳士「そりゃいかん。」
5 農婦のフル・ショット。
農婦「もう出るのでござんしょうな、もう出るって、さっきいわしゃったがの。」
6 田舎紳士のバスト・ショット。
田舎紳士「さアて、何しておるやらな。」
そのまま。カメラ、田舎紳士を前にフレーム・アウトして、再びゆっくり回転し、場庭をなめるようにゆっくり映す。
向こうの厩近くに、母親と子供がフレーム・イン、それがアウトして、再び田舎紳士と農婦がフレーム・イン、それがアウトして場庭への道に若者と娘が入ってくる。
そこで。パン、ストップ。
農婦、右手からフレーム・イン、場庭の中へ入ってきた若者と娘の傍へ近寄り、
農婦「馬車に乗りなさるのかな。馬車は出ませんぞな。」
若者「出ませんか?」
と若者は半ば絶望的に訊き返す。同じく畳み掛けるように、
娘「出ませんの?」
7 農婦のバスト・ショット。
農婦「もう二時間も待っていますのやが、出ませんぞな。街まで三時間かかりますやろ。もう何時になっていますかな。街へ着くと正午になりますやろか。」
8 左を向いた田舎紳士のフル・ショット。
田舎紳士「そりゃ正午や。」
9 農婦の右手からのバスト・ショット。こちらを向いて、
農婦「正午になりますかいな。それまでにゃ死にますやろな。正午になりますかいな。」
と言いながら、また、泣き出す。
10 シークエンス5のショット1と同じ俯瞰ショット。老婆はそのうちに画面の下に向かって走り出す。
11 湯気を立てている、まんじゅう屋の店頭。正面からの全景。床机で一人、将棋盤を枕にしてあおむきになった馭者が見える。店の奥の土間では主婦が簀の子を洗っている。
右手から走りこんでくる農婦。
農婦「まだかのう。馬車はまだなかなか出ぬじゃろか?」
12 あおむけのままの馭者の顔、バスト・ショット。背後に、農婦の下半身がソフト・フォーカスで映り込む。
13 農婦。饅頭屋の主婦の方へ頭を向け、
農婦「饅頭はまだ蒸さらんかいのう?」
カット。

●シークエンス7 1シークエンス9カット 
暗転画面。柱時計の音。「チク、タク、チク、タク……」。本シークエンスは最後まで、その音のみ。
1 まんじゅう屋の竈の火のアップ。
パン・アップして、まんじゅうを蒸す蒸籠。そこから吹く湯気。
2 あおむけの馭者の顔。
3 あおむけの馭者のもごもご動かす口のアップ。
4 農婦の悲しい右目のアップ。
5 湯気を立てている蒸籠。
6 十時を打つ柱時計。
ボン、ボン、
7 湯気を立てている蒸籠。5よりアップ気味。
ボン、ボン、
8 まぐさをを切る馭者。(ここからまぐさを切る音、加わる)
ボン、ボン、/ザク、ザク、ザク……
9 その横で水桶から顔をを上げる馬。
ボン、ボン。/ザク、ザク、ザク……

○シークェンス8 1シークエンス18カット
1 止まっている馬に馬車がつながれる様子を左から。馬の胴と馬車の轅。カメラ、左にパンして、足早に乗り込む農婦。
2 馭者の顔のアップ。
馭者「乗っとくれやア。」
3 馬車の中から。乗る田舎紳士、母親と男の子、最後に若者と娘。若者は回りを気にして見回しながら。
4 蒸籠の上のまんじゅう。「むんず」と馭者の手。カメラ、追って、腹がけのまんじゅうが入った、ぽこっとした、ふくらみ。
5 ラッパの先端のアップ。鳴る。
6 空を切るむちのアップ。「パン!」と馬を打つ音。
7 顕微鏡的接写。馬の毛の中で、むっくりと起き上がる蠅の頭部。
8 (カメラを振り回す感じで)蠅の眼の主観で、蠅の飛ぶイメージ。以下、13まで「ブーン」という蠅の羽音を強調持続。
9 炎天の空。(カット・バック)
10 太陽。(カット・バック/ハレーション)
11 馬の背中。(カット・バック)
12 雲。(カット・バック)
13 上から馬車の屋根の少し上。馬車の動きに合わせて。そのまま、すっと下りて屋根の上、アップ。映像安定。蠅が屋根に降りたイメージ。
14 超ローアングルで炎天の並木道。馬車の通過を地面上で捉える。来て、去る馬車。
15 小豆畑の側を抜ける馬車のフル・ショット。
16 亜麻畑と桑畑の間を揺れながら走り抜け、森に入って行く馬車のフル・ショット。
17 まんじゅうをさもうまそうに食う馭者のバスト・ショット。
18 疾走する馬の額の汗に急速にクロースアップ。その汗に映る、森の緑。カット。

○シークェンス9 1シークエンス30カット
1 馬車の中。(スクリーン・プロセスによるスタジオ撮影)ショット5まで時々、むちとラッパの音を入れる。
2 しきりに何やら面白おかしい自分の四十三年の貧困の戦いとこの春の蚕の仲買の成功を語る田舎紳士(台詞は、適宜、アドリブで)。
3 聴き入っている若者と、それに寄り添う娘。
4 喋る田舎紳士。
田舎紳士「そういゃ、昨日は銭湯に行きましてな、あんまり、金が気になりましてな、洗い場まで持ちよったのには、笑われましたじゃ。」
5 母親、笑い、カメラ、パンする。顔を見合わせた娘、笑う。カメラ、さらに戻って母と、その横の、車体の柱を握って外を生き生きとした眼で見ている男の子へ。男の子「お母ア、梨々。」
母、田舎紳士の方に、気を取られつつも、快活に、
母「ああ、梨々。」
6 農婦の顔のアップ。
7 田舎紳士の帯の鎖のアップ。
8 農婦のバスト・ショット。心配そうに。
農婦「もう幾時ですかいな。十二時は過ぎましたかいな。街へ着くと正午過ぎになりますやろな。」
9 馭者台。居眠りしている馭者のバスト・ショット。
10 顕微鏡的接写。屋根の上の蠅の頭部。
11 蠅の見た目。過ぎ行く数段の梨畑。
12 蠅の見た目。真夏の太陽の光りを受けて真赤に栄えた赤土の断崖。
13 蠅の見た目。俯瞰ショット。突然に現れた激流。
14 馬車の左後輪のアップ。かたかたときしむ音。
15 蠅の見た目。俯瞰ショット。激流や河原。
16 車体の上から俯瞰ショット。居眠りしている馭者の垂れ下った半白の頭の後ろ。突然、「ブーン」という羽音と共に、その頭へズーム・イン。そしてすぐに、再び「ブーン」という音とともに、前方の馬の背中まで移動。
17 顕微鏡的接写。馬の背の上の蠅の頭部。また、前脚で複眼を拭う動作。
18 御者台から。崖の頂上へさしかかる馬車。
19 馬の見た目(カメラの両端に馬遮眼帯を付ける)。馬の前方に現れた眼かくしの中の路に従って馬、曲り始める。
20 左の前車輪が路から外れるアップ。宙に浮く馬の上半身。 嘶き。
21 顕微鏡的接写。馬の背の上の蠅の頭部。「パッ」と飛び立つ蠅。
22 クレーン・ワークで、空中から蠅の見た目(従って左右前後にややぶれを伴いながら)。車体と一緒に崖の下へ墜落して行く放埒な馬の腹。
23 崖を落下する馬と馬車の高速度撮影によるフル・ショット。人馬の悲鳴。
24 静寂。炎天の太陽。(ハレーション)カメラ、ゆっく、りティルト・ダウン。
沈黙したまま動かない、河原の上の圧し重なった人と馬と板片との塊りへ少しズーム・アップして、またゆっくりズーム・アウト。
25 蠅。
26 その複眼の接写最大クロースアップ。
27 再び、沈黙したまま動かない、河原の上の圧し重なった人と馬と板片との塊り。
28 蝿。その羽の接写最大クロースアップ。「ブーン!」
29 震える羽!
30 ヘリコプターによる空撮。一気に29のショットからかろやかに上昇、小さくなってゆく沈黙したまま動かない、河原の上の圧し重なった人と馬と板片との塊り。途中から分かるか分からない程度の高速度撮影に切り替え。山並み。日差し。太陽。ハレーションを起こさせながら、ホワイトF・O。(完)