鬼火へ
やぶちゃんの横光利一「蠅」の映像化に関わる覚書/シナリオへ
横光利一「蠅」の「四」の
生徒によるオリジナル・ピクトリアル・スケッチ
(copyright 2011 Yabtyan-osiego)
[やぶちゃん注:これは本年二〇一一年に私が授業で横光利一の「蠅」を朗読、その後に自由に描かせた生徒の絵コンテ(ピクトリアル・スケッチ)の中で、その絵、カメラ・ワーク、SE(サウンド・エフェクト)の附け方など、あらゆる点で深い感銘を受けた、駆け落ちする若者と娘のシーン(「四」章)の、私の教え子の高校三年生の女子生徒H.S.の作品を本人の同意許諾のもとに公開するものである。一部に書体の異なるカメラ・ワークの指示や光の射し方、撮り方などの書き込みが加えてあるが、これは完成後のものに感動した私が思わず附け加えたものであるから無視されたい。これは彼女の完全なオリジナル作品である。ショットは、それぞれ便宜上附けた1・2・3の画像の中で、右上から右下、次に左上から左下へと移動する。なお、参考までに横光利一「蠅」の「四」の引用を冒頭に示しておく(引用は青空文庫のものをルビを排除して使用させて頂いた)。本画像は教え子である作者H.S.が著作権を有する。故に一切の画像の転載を厳に禁ずるものである。画像はページの倍率を50%にするとブラウザでは見易いが、ショットの解説細部は等倍でご覧戴きたい。【2011年12月20日】]
【原文】
四
野末の陽炎の中から、種蓮華を叩く音が聞えて来る。若者と娘は宿場の方へ急いで行った。娘は若者の肩の荷物へ手をかけた。
「持とう。」
「何アに。」
「重たかろうが。」
若者は黙っていかにも軽そうな容子ようすを見せた。が、額から流れる汗は塩辛かった。
「馬車はもう出たかしら。」と娘は呟つぶやいた。
若者は荷物の下から、眼を細めて太陽を眺めると、
「ちょっと暑うなったな、まだじゃろう。」
二人は黙ってしまった。牛の鳴き声がした。
「知れたらどうしよう。」と娘はいうとちょっと泣きそうな顔をした。
種蓮華を叩く音だけが、幽かすかに足音のように追って来る。娘は後を向いて見て、それから若者の肩の荷物にまた手をかけた。
「私が持とう。もう肩が直なおったえ。」
若者はやはり黙ってどしどしと歩き続けた。が、突然、「知れたらまた逃げるだけじゃ。」と呟いた。
【H.S.ピクトリアル・スケッチ1】
【H.S.ピクトリアル・スケッチ2】
【H.S.ピクトリアル・スケッチ3】
横光利一「蠅」の「四」の生徒によるオリジナル・ピクトリアル・スケッチ 完