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春
初空や出の姿して日本橋
祝世界之日本發刊二句
旗色に比す日本の初日影
また
御代の春世界之日本となりにけり
初風呂やつきせぬながれ清元の
買初に雪の山家の繪本かな
音冴えて羽根の羽白し松の風
まな板に旭さすなり芹薺
爪紅の雪を染めたる若菜かな
春淺し梅樣まゐる雪をんな
釣鐘に袖觸れつ春寒き寺
春晝や城あとにしてさへのかみ
おぼろ夜や去年の稻づか遠近に
おぼろ夜や片輪車のきしる音
君も繪もおなし姿やおぼろ月
浮世繪の絹地ぬけくる朧月
春月や摩耶山?利天上寺
紅閨に簪落ちたる夜半の春
戀人と書院に語る雪解かな
冠きせ參らせつゝも雛の顏
雨の中摘むべき草を見てすぎぬ
長の家わづかに蠶なき一間
たをやかに石竹蒔くや七日月
唄はずて娘毬つくねはん寺
潅佛や桐咲くそらに母夫人
うつくしや鶯あけの明星に
夕なきす鶯たかき銀杏かな
山鳥の雌雄來て遊ぶ谷の坊
飯蛸の頭つゝきつ小鍋立
初蝶のまひまひ拜す御堂かな
なく蛙白河に關はなかりけり
苫船か苫屋か宵の遠蛙
友染の夜具欄干に椿かな
紅椿つとおつ午時の炭俵
井戸端に紅梅の雨なゝめなり
紅梅に玉なゝめ也井戸のあめ
むかふるに柳おくるに梅の宿
町内の鶯來たり朝櫻
曙の墨繪の雲や糸ざくら
蕉園をおもふ
普門品ひねもす雨の櫻かな
階子して花屋が室を山櫻
花の山麓の橋の人通り
影向のあさきすみぞめ夕櫻
母こひし夕山櫻峰の松
雪洞をかざせば花の梢かな
公園の櫻月夜や瀧の音
鈴つけて櫻の聲をきく夜かな
山端や一もと櫻おそ櫻
花李美人の影の青きまで
藤棚や雨に紫 末濃なる
白藤や小瀧の橋の朱欄干
紫の映山紅となりぬ夕月夜
淺學
山吹によき句すくなし今むかし
雲助の裸で寢たる緋木瓜かな
すみれ野や松葉かんざしおとしざし
ほつねんと小法師ひとり桑の道
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夏
五月雨や棹もて鯰うつといふ
船頭も饂飩打つなり五月雨
五月雨や尾を出しさうな石どうろ
悟空三たび芭蕉扇を調ふ極暑かな
蟹の目の巖間に窪む極暑かな
日盛や汽車道はしる小さき蟹
日盛に知らぬ小鳥の遠音かな
雲の峰石伐る斧の光かな
虚無僧の二人つれだつ雲の峰
溝川に蓮
咲きけり雲の峰
擬少年行
ゆふだちや洗つて酒を手水鉢
窓々や青田見めぐる羅漢堂
岸行くや雫も切らず四手網
銀河天に高張立てし水の番
かけ菖蒲して傘貸さむ女客
あやめ湯の菖蒲さげ行く新湯かな
はち卷の菖蒲花咲く簪かな
黒猫のさし覗きけり青簾
ありさうにてまへがきなし
すゞみ臺冨樫ノ左衞門これにあり
讀西遊記羅刹あねごに題す
夕すゞみ猿にうちはをとられけり
稗蒔に月さし入るや板廂
手にとれば月の雫や夏帽子
露次ぐちや女の袖に夏帽子
わか松も小松も月の浴衣かな
うすものや月夜を紺の雨絣
うすものの螢を透す螢かな
苔の露十三塚の螢かな
ゆく螢
宿場のやみを戀塚へ
梟の聲にみだれし螢かな
髮長き螢もあらむ夜はふけぬ
午の螢ゆびわの珠にすき通る
蝙蝠や二日月夜の柳町
馬道を水鷄のありく夜更かな
玉造温泉にて
水晶を夜る谷や時鳥
白山のそのしのゝめやほとゝぎす
筍や狢の穴の葎より
竹の子や藪の中から酒買ひに
卯の花や家をめぐれば小き橋
よしありて卯の花垣の妾
一八やはや程ケ谷の草の屋根
野の池や葉ばかりのびし杜若
わが戀は人とる沼の花菖蒲
みちのくや牡丹驛またあやめ宿
寺幽に牡丹もゆなり麥の中
河骨やあをい目高がつゝと行く
河骨の影ゆく青き小魚かな
雲白し山蔭の田の紅蓮華
葉柳や盥のきぬの淺みどり
新築の青葉がくれとなりにけり
門の松背戸の大松みどりなり
瀧三條夕日にかゝる新樹かな
幻の添水見えける茂りかな
花二つ紫陽花青き月夜かな
掌に花柚のせつゝ片折戸
花柘榴雨は銀杏にあがりけり
常夏に雨はら/\と白い蝶
撫子の根に寄る水や夕河原
晝顏の黄昏見たり歩み佗び
夕顏やほのかに縁の褄はづれ
干瓢や賤の苧環剥きかへし
青蓼の廚も見えて麻暖簾
夏萩を見乍ら丸髷に結ひけるか
百合白く雨の裡山暮れにけり
白菊き菊そのほかに夏菊の紫
桑の實のうれける枝をやまかゞし
海松ふさの颯と大なり浪がしら
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秋
稻妻に道きく女はだしかな
秋の雲尾上の薄
見ゆるなり
實柘榴のうらすくばかり月夜かな
十六夜やゆうべにおなじ女郎花
十六夜やたづねし人は水神に
山伏の篠山渡る初あらし
古蚊屋にランプの宿よ初あらし
物干の草履飛行く野分かな
朝霧の下谷はれ行く人馬哉
露寒し露寒し月に蓑着ばや
爪彈の妹が夜寒き柱かな
やぼがよし原に參り候
助六を夜寒の狸おもへらく
遠里や七夕竹に虹かゝる
貸小袖袖を引切るおもひかな
花火遠く木隱の星見ゆるなり
鼻紙に山蟻拂ふ墓參かな
たま棚や笹の葉がくれ蓮燈籠
看病の娘
出しやる踊かな
後の雛うしろ姿ぞ見られける
栃餠や藏よりとうづ砂糖壺
打ちみだれ片乳白き砧かな
砧うつはよい女房か案山子どの
誰が鳴子繪馬さかさまにかゝりたる
來るわ/\扱くあとへ稻を引扛ぎ
打果てて雨の網代に人もなし
行燈にかねつけとんぼ來りけり
浦風や秋の蝶飛ぶ小松原
秋の蝶さみしさに見れば二つかな
きり/\す此處は砂村瓜畠
鵙なくや大工飯食ふ下屋敷
南天燭の實にひよどりのさゝやきよ
鳴かでたゞ鶺鴒居るや石の上
木槿垣萩の花垣むかひあひ
雪洞に女の袖や萩の露
木犀の香に染む雨の鴉かな
濱寺に一本咲ける桔梗かな
朝風や螢草
咲く蘆の中
蘆垣に嫁菜花さく洲崎かな
山姫やすゝきの中の京人形
むら雨や尾花苫ふく捨小舟
湯の山の村村おなじ小菊かな
湯の山の小村小村や菊の花
鹽原にて
むらもみぢ灯して行く狢の湯
水瓶に柳
散込む廚かな
田鼠や薩摩芋ひく葉の戰ぎ
すさまじき蕈の椀や榾あかり
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冬
初冬の狐の聲ときこえたり
初霜や落葉の上の青笹に
朝霜やちよぼに勝ちたる懷手
夕霜や湖畔の焚火金色に
凩らしに鰒ひつさげて高足駄
こがらしや噴水に飛ぶ鉋屑
凩や天狗が築く一夜塔
川添や酒屋とうふ屋時雨れつゝ
川添の飴屋油屋時雨けり
片時雨杉葉かけたる軒暗し
鵺の額かゝる霙の峰の堂
飛びかはす鶸よ鶲よ雪の藪
一つ咲く薄色椿
庭の雪
結綿に蓑きて白し雪女郎
雪ぢやとて遣手が古き頭巾かな
質おいて番傘買ふや夜の雪
抱きしめて逢ふ夜は雪のつもりけり
下かけもいうぜんならし置炬燵
藏前や師走月夜の炭俵
ピンゾロの丁と起きたり鐘氷る
松明投げて獸追ひやる枯野かな
榾たくや峠の茶屋にいわし賣
水涕や頬當かくる小手の上
山笹をたばねて打つや冬の蠅
曉や尾上を一つ行く千鳥
鳥叫びて千鳥を起す遣手かな
姥巫女が梟抱いて通りけり
京に入りて市の鯨を見たりけり
猪やてんてれつくてんてれつくと
臥猪かと驚く朴の落葉かな
冬櫻めじろの群れて居たりけり
湯の村に菊屋山茶花冬薔薇
山茶花に雨待つこゝろ小垣
山茶花に此の熱燗の恥かしき
路傍の石に夕日や枯すゝき
日あたりや蜜柑の畑の冬椿
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