やぶちゃんの電子テクスト集:小説・戯曲・評論・随筆・短歌篇
鬼火へ


比呂志との問答 芥川龍之介

[やぶちゃん注:執筆年次不明。底本は岩波版旧全集を用いた。比呂志の言葉つきからは最晩年のものと思われる。便宜上、底本では「十本の針」の別稿の前に置かれているので、私の目次でもそのように配した。【2011年1月3日】]

比呂志との問答


 僕は鼠になつて逃げるらあ。

 ぢや、お父さんは猫になるから好い。

 さうすりやこつちは熊になつちまふ。

 熊になりや虎になつて追つかけるぞ。

 何だ、虎なんぞ。ライオンになりや何でもないや。

 ぢやお父さんは龍になつてライオンを食つてしまふ。

 龍? (少し困つた顏をしてゐたが、突然)好いや、僕はスサノヲ尊になつて退治しちまふから。