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『月曜』第一卷第四號 編輯後記   尾形龜之助

[やぶちゃん注:現行の「尾形龜之助全集」には本テクストは載らない。底本は友人がコピーして贈ってくれた思潮社の旧版「尾形龜之助全集」(草野心平・秋元潔編/昭和四五(一九七〇)年刊)の別冊資料集に載る雑誌『月曜』第一巻第四号(奥付の『第一巻第三号』は原本の誤植である)「編輯後記」及び奥付を視認して電子化したが、底本は新字化されているため、総てを恣意的に正字化して示した(但し、正字化に際しては同じ友人のコピーして呉れた『月曜』の第一巻第一号の原本画像の「編集後記」及び「奥付」を参考にしているので、強ち、いい加減に恣意的という訳ではないことを申し添えておく)。原資料の誤植・衍字と思われる箇所もそのままとし、底本にある編者によるママ注記は除去した。奥付の字配は読み易さを考え、必ずしも底本とは一致させてはいない。
 底本のママ注記のある当該箇所及び私のタイプ・ミスではない底本の不審な箇所は、以下の通り。
   *
〇第一段落
・「淋びしく」。この「び」からの送りは龜之助の癖である。なお、これにはママ注記はない。
・「他の雜誌の廣告は見て」の「は」。恐らくは「他の雜誌の廣告を見て」の誤植。
・「買つ歸るやうにしたい」。「買つて歸る」の脱字)。
〇第三段落
・「何時も横目で見てゐるのである」の段落末尾に句点がない。但し、これにはママ注記はない。ただ、これは組版自体の限界で行末まで字が詰まった際には、枠外に句読点が打てない構造になっていたものと推測される。
〇第五段落(×の直後の段落)
・「豫定であるつた」。「豫定であつた」の衍字。
・「初號の賣上が最近金になつた が」。一字分空欄はママ。但し、これにはママ注記はない。
〇第八段落(××の直後の段落)
・「おそくも」。「おそくとも」の脱字であろう。但し、これにはママ注記はない。
・「書かなけれはならかつた」。「書かなければならなかつた」の誤植と脱字。但し、「は」にはママ注記はない。
〇第九段落
・「どしてもやうめられない」。「どうしてもやめられない」の誤植。但し、「どしても」の箇所にはママ注記はない。
・「眼とつむつて」。「眼をつむつて」の誤植。
〇第十段落
・「頭をかかいてゐると」。「頭をかかえてゐると」の誤植であろう。
・「机にさしていつて呉た」。「机にさしていつて呉れた」。但し、「れ」から送らない人もいるので、これは必ずしも脱字と断定は出来ない。
・段落末尾(本「編輯後記」全体の掉尾)に句点がない。但し、これにはママ注記はない。ただ、これも前に述べた組版自体の限界による確信犯の可能性が高い。
〇奥付
・「第一巻第三号」。第一巻第四号の誤植。
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 この想像を絶する数の誤りは、校正の杜撰さというよりも植字の杜撰さと考えられる。一校一読で容易に目に留まる誤りばかりであるが、それがそのまま印刷されてしまっているというはまさに、この編集後記に書かれている通り、第三号の編集後に発行所が変更になったことと無縁とは思われない。第一巻第一号の奥付を見れば分かる通り、印刷所も変わっている(一般に現在でも印刷所は発行所に強く依存しており、発行元が変われば印刷所が変わるのは常識だが、これをみると本号の印刷所は個人名で「印刷所」でさえない点に注意されたい)。『月曜』の切きり舞いの破綻的台所事情から、流暢に校正出来るような状態になかった、発行出来るだけでも幸いといった状況が、この如何にも痛い「眼とつむつて歩」いているような誤植群からも読み取れると言えよう。
 雑誌『月曜』については、私の第一巻第一号の電子テクストの冒頭注を参照されたいが、底本に附された秋元氏に解説の書誌データによれば、当『月曜』第一巻第四号はA5判・本文四十八頁・表紙(『表級』とあるが誤植と見做した)四頁・本文八ポイント三段組、紙質は表紙が上質紙六十キログラム(現行のコピー用紙とほぼ同程度の厚み)・本文が中質紙、表紙は二色刷(黒色と黄土色)で本文は黒単色、『表2』(見返し二枚目か)に南欧商会のマンドリンの広告、『表3』(裏表紙見返しから三枚目か)に本後記と奥付が三段組・アイ色刷(藍色インクによる印刷)で載るとある。
 最後に新全集の秋元氏による『「月曜」目次目録』があるので、本四号のそれを以下に示しておく。
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フエヤリー・ランドの      岡田光一郎
こども             伊藤 松雄
大仏を見に           石原 源三
蝙蝠に成りたい         能勢 登羅
あぶさん・仔犬・女       服部 直人
桃色の船            山崎 俊介
蛙・五匹            草野 心平
トリック            井上 康文
酒場の話            河本 正義
訳詩(クルト・シュイツラルス) 神原  泰
ドグマ・二三          角田 竹夫
茶話              清水 投鬼
朝馬鹿             尾形亀之助
化粧              八十島 稔
傷病兵             高馬 円二
劇場再興            飯田 豊二
姉妹と千一           高橋 新吉
東京新景物詩          春山 行夫
江戸城総攻           大平 野虹
歌人の行脚           田上 耕作
露の路             上杉 楽鳥
薬               大西  登
太陽と鶯            山崎醇之輔
ぶろうくん・はあと       間島惣兵衛
死は虚無の実行か        大村 主計
キネマ愚談           清水 孝祐
昔噺江戸の聞書(三)      村上福三郎
童謡詩             末繁 博一
帷子              倉橋 弥一
童話・ピイドンドン社      土屋由岐雄
お馬と子供           田尻 征夫
おいなりさん          サトウハチロー
天狗と祖母           百合枝謙三
化かされ            佐藤 紫弦
芸者と俥人の話         武田 静人
停車場の貌           戸田 達雄
露西亜の接吻          島  東吉
春の海辺の出来事        辻本浩太郎
盆踊              加藤 四郎
編集後記            尾形亀之助
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 この内、龜之助の「朝馬鹿」は彼にしては比較的長め掌品の小説で、私の仮想復元版である「尾形亀之助作品集『短編集』未公刊作品集推定復元版 全二十二篇 附やぶちゃん注」で、三種類(破調や誤用が目立って多いために①底本準拠版・②誤記誤用補注版・③補正修正版を作成してある)を用意してある。未見の方は、是非どうぞ。
 最後に。――本資料を私の五十八の誕生日に贈って呉れた私の友に――心より謝意を表する――【藪野直史 2015年3月3日】]


    
編 輯 後 記

 初號は噂の半分に足りない賣れ行きであつた。一册も賣れなければ廢めるよりほかには仕方がないが、一册でも賣れてゐる間はやめられない。新聞廣告が出來なければ、その月はしないまでのことだ。淋びしくはあるが止むを得ない。他の雜誌の廣告は見て、他の雜誌を買ひに本屋へ行つても「月曜」を買つ歸るやうにしたいものである。
 「月曜」は一個の本屋の機關雜誌ではない。又、定められた人達の同人雜誌ではない、又文壇といふ背景を更にもたないし、文壇に向つて進んでゐるのではない。
 「月曜」にとつて文壇は何時までも川向ふであり、何時も横目で見てゐるのである
 「月曜」はこの時代の機關雜誌ヽヽヽヽである。
    ×
 すつかり押詰まつてしまつた苦しい經濟狀態である。執筆諸家へはその月の賣上(利益ではなく)の半分を等分に差し上げる豫定であるつた。初號の賣上が最近金になつた が、小額ではあるけれどもその半分をなくすと、この四月號か五月號を休刊するやうなことになるので、賣上全部を四月號に使つてしまつた。
きまつた稿料を拂つて藏を建てるといふのでのではない。初號以來一錢の稿料も支拂はぬ無謀さは、しばらくの許しを願ひたい。發行所となつてはゐるが、惠風館は發賣所に過ぎない。で、責任はすべて私にある。
 「月曜」は今を苦境時代となることを願ふ。
    ××
 と、おそくも三月號の後記に書かなけれはならかつた――ことになつた。編輯後に惠風館から離れて本誌が發行されることになつたからである。
 ソロバンヽヽヽヽがとれないからやめると云ふ。どしてもやうめられないと云ふ――で、とにかく先づ月曜社を創つてとりあへず發行所としたのであつて、苦しくともこの仕事をなくすことは出來ないのである。まづくはあるが、以上を發行所が變つた否獨立したあいさつにかへなければならない。眼をあいて歩けなければ、眼とつむつて歩くつもりである。
 頭をかかいてゐると、妹が薔薇を一本机にさしていつて呉た。うれしい氣持である



    
第一卷第三號 定價 二拾錢

 誌  代
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    一月一冊  金二十錢   税 五厘
    六ケ月册  金一圓二十錢    共
    一年十二册 金二圓三十錢    共
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廣告料 特別一頁五十圓 普通一頁二十圓
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大正十五年三月二十五日印刷
大正十五年四月 一 日發行
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     東京府下落合町上落合七四二番地
  編輯發行      門 脇     文
  兼印刷者      尾 形 龜 之 助
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     東京府下落合町上落合七四二番地
發行所         月   曜   社
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    東京市淺草區千束町二丁目五八番地
  印刷所      相  川  作  藏
 大賣捌 東京堂 東海堂 北隆館 大東館

■やぶちゃん注
・「誌代」の文字は、底本では次の三行の購読料の上部に左から右に記されてある。
・税の金額が不審である。第一巻第一号の奥付では『税』(郵便税と思われる)が『一錢五厘』である。本体価格からみて、これは『一錢五厘』が正しいと思われるが、これが元の雑誌のミスなのか、それとも底本の活字起こしの際のミスなのかは定かでない。少なくともママ注記はない。]