少女アリス

無垢で曇りなき眉と
 不思議の夢見る瞳の子よ!
時は駿く、我ときみとは
 半生の歳の差があろうとも
きみの愛しきほほえみは確かに
 愛の贈り物たるおとぎ話を勝ち得るはず

きみの輝かしい顔も見ず
 銀の笑いも耳にせず
きみの若き人生の将来に
 我が思い出の居場所もないはず――
でもいまのきみが、我がおとぎ話にさえ
 耳を傾けてくれれば十分

別の日、夏の日差し輝く頃
 始まりし物語
ボートを漕ぐリズムに
 あわせた簡単なチャイム
そのこだまがいまも記憶中に生きる
 ねたむ月日が「忘れよ」と言おうとも

では聞きなさい、辛辣な報せを携えて
 恐怖の声がやってきて
歓迎されぬ寝床に
 憂鬱なる乙女を召還する前に!
愛しい人、われわれもまた年老いた子供にすぎず
就寝時刻の接近を嫌うのだ

外では霜と目も開かぬほどの雪
 吹き荒れる気まぐれな嵐風の狂気
室内では暖炉の赤い輝きと
 子供時代の喜びの巣
魔法のことばが汝をしっかり捕らえ
汝は荒れ狂う風雨に気づくこともない。

そして過ぎ去りし「しあわせな夏の日々」と
 消え失せた夏の栄光のための
そしてため息の影が物語を
 一貫して震えぬけようとも
それが悲嘆の息もて我らの
おとぎ話の喜びに触れることはない。







〔やぶちゃん注記:挿絵及び詩はプロジェクト杉田玄白提供によるルイス・キャロル著/挿画ジョン・テニエル/翻訳山形浩生「不思議の国のアリス」挿絵及び「鏡の国のアリス」冒頭詩及び挿絵(共にコピーライト1999 山形浩生)より転載。(アリスの写真三点 copyright 2005 Yabtyan)〕